TOP-HAT News 第205号(2025年9月)
.◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)
第205号(2025年9月)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html で。
エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部
◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに HIVに関する誤解や迷信の払拭を レマン湖畔でポスター展示
2. 地政学的変化への危機感を表明 キガリ宣言
3 世界エイズデー国内キャンペーンのチラシとSNS用バナーを公開 エイズ予防財団
4 パブリックコメントを募集 エイズ予防指針改正案
◇◆◇◆◇◆
1 はじめに HIVに関する誤解や迷信の払拭を レマン湖畔でポスター展示
HIVに関する誤解や偏見を解くためのポスター展がスイス・ジュネーブのレマン湖畔で開催されているというプレスリリースが国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに、掲載されています、
『HIVというウイルスについては、もう十分な知識を持っていると思っている人が多いようですが、実は様々な誤解が広がったままになっています。最初のHIV感染症例が確認されてからすでに40年以上が経過しているのに、誤った情報とスティグマ・差別は依然として根強く残っているのです』
プレスリリースにはこう書かれています。会期は9月の1カ月間ということなので、間もなく終了ですが、UNAIDS事務局の所在都市であり、いわばおひざ元でもあるジュネーブでも、こうしたキャンペーンが必要なのかと考えると、遠いヨーロッパの話とも思えません。HIVとエイズの流行に対して、知識や情報のUPDATEが必要であるという現実は、ジュネーブでも、日本を含む世界の他の地域と変わらないようです。プレスリリースの日本語仮訳がAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に掲載されているので紹介しておきましょう。
https://api-net.jfap.or.jp/status/world/booklet089.html
HIVの流行に関する最新の推計データについてUNAIDSはこう報告しています。
『UNAIDSは2024年の年間新規HIV感染者数を130万人と推定しています。つまり1日平均3500人が新たに感染しているのです。そして世界全体のHIV陽性者4080万人のうち4分の3以上の人が治療を受けているのに、それでもなお2024年には毎分1人がエイズ関連の原因で亡くなっています』
世界全体で言うと、3000万人を超えるHIV陽性者が生きていくために必要な抗HIV薬による治療を受けています。治療の普及により、エイズ関連の原因による死亡者数は大きく減少していますが、それでも年間63万人が亡くなっているのです。死亡者の多くは、若者や働き盛りの年齢層の人たちです。エイズの流行は決して終わったわけではありません。
「しかも」とプレスリリースは続けています。
『HIV陽性者は依然、スティグマや差別に直面しているのです。それがHIVの新規感染予防を妨げ、HIV陽性者自身の生命と健康を維持する治療も含めたHIVサービスへのアクセスを阻んでいます。事実を知り、誤解と迷信を払拭することで、スティグマを打ち破り、誰もが差別を受けることなく安心してHIVサービスを利用できるようにしなければなりません』
日本の2025年世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマは『U=U 検出されない=感染しない』です。テーマの趣旨はジュネーブのポスター展示と実は共通しています。
http://www.ca-aids.jp/theme/
『U=Uは治療の進歩がもたらした予防手段です。治療の普及を進め、HIV陽性者やその周囲の人たちへの社会的な差別と偏見を解消し、HIV検査を受けやすい環境を広げます』(テーマの趣旨から)
一方で、次に紹介する最近の『地政学的変化』はこうした動きに対立し、「公衆衛生上の危機としてのエイズ流行終結」に向けて曲がりなりにも積み上げてきた成果を一気に破壊してしまう恐れもあります。世界はますます前途多難です。
2. 地政学的変化への危機感を表明 キガリ宣言
ルワンダの首都キガリで開催された第13回HIV科学会議(IAS2025、7月13~17日)の閉幕から一カ月余りが経過した8月末、国際エイズ学会(IAS)の公式サイトに「キガリ宣言」が掲載されました。
https://www.iasociety.org/kigali-declaration
もともとはIAS2025に向けて、アフリカや米国のHIV研究者3人が、国際的に署名を呼びかけるために起草したKigali Call to Action(キガリ行動呼びかけ)という文書だったのが、世界の研究者や医療専門家、アクティビストら多数の署名を得て、若干の文言の修正を行ったうえでKigali Declaration(キガリ宣言)となったものです。
宣言はまず、過去40年以上にわたり目覚ましい成果をあげてきた世界のHIV対策のレガシー(歴史的成果)が『国際援助政策の転換と資金の途絶、そして弱い立場のコミュニティに対する攻撃』といった地政学的変化によって、危機に追い込まれていることを指摘しています。
その変化の最大な要因が米国のトランプ政権による国際保健と対外援助政策の大転換です。行動呼びかけ に比べると、宣言では米国のトランプ政権に対する批判は抑え気味ですが、それでも『専門家の推定』を根拠に『米国政府が2025年初頭に対外援助を中断・終了したことで、アフリカでは2030年までにHIV関連の死亡者数が、これまでの推計より6万人から7万4000人も増加する可能性があります』などと指摘しています。
また、世界の指導者に対し、HIV対策が再び成果を上げられるようにするため、以下の5原則の再確認と対応を求めています。
1 実質を伴うパートナーシップ(新たなパートナーシップによるアプローチ)
2 国際的なHIV研究支援
3 HIV予防の優先(予防・治療プログラムの大規模な拡大)
4 人権の尊重
5 科学に基づいた政策
キガリ宣言の日本語仮訳はこちらで。
http://www.ca-aids.jp/features/367_kigali2.pdf
3 世界エイズデー国内キャンペーンのチラシとSNS用バナーを公開 エイズ予防財団
2025年のキャンペーンテーマは『U=U 検出されない=性感染しない』です。昨年に続きU=Uを取り上げているのですが、『U=U』と言われても何のことだか分からないという戸惑いの声もあります。
A5判のフライヤー(チラシ)は、表裏2ページの限られたスペースの中で、分かりやすくキャンペーンの趣旨を伝えるものです。こちらからPDF版をダウンロードできます。
https://www.jfap.or.jp/enlightenment/goods.html
バナーは2種類あり、メッセージを二つに分けて伝えています。
『適切な治療を続けウイルス(HIV)量が低くなれば、HIVが性行為で他の人に感染することはなくなります』
『治療の成果が予防につながり、HIV検査を受けやすい環境が広がります』
https://www.jfap.or.jp/enlightenment/2025_flyer_ichiran.html
4 パブリックコメントを募集 エイズ予防指針改正案
厚生科学審議会の第97回感染症部会が8月7日に開催され、後天性免疫不全症候群予防指針(エイズ予防指針)、および性感染症予防指針について、厚労省から示された改正案の方向性について了承しました。厚労省はこの改正案について9月8日(月)からパブリックコメントを募集しています。締め切りは10月8日(水)0時0分。つまり10月7日必着ということです、
エイズ予防指針に関する意見提出の方法および提出上の注意については意見募集要領(PDF)をご覧ください。
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000298510
また、エイズ予防指針改正案の概要(PDF)についてはこちらで
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000298511
予防指針改定に向けた論点などを厚労省がまとめた資料『後天性免疫不全症候群及び性感染症に関する特定感染症予防指針の改正について』はこちらでダウンロードできます。
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001534150.pdf
TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)
第205号(2025年9月)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html で。
エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部
◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに HIVに関する誤解や迷信の払拭を レマン湖畔でポスター展示
2. 地政学的変化への危機感を表明 キガリ宣言
3 世界エイズデー国内キャンペーンのチラシとSNS用バナーを公開 エイズ予防財団
4 パブリックコメントを募集 エイズ予防指針改正案
◇◆◇◆◇◆
1 はじめに HIVに関する誤解や迷信の払拭を レマン湖畔でポスター展示
HIVに関する誤解や偏見を解くためのポスター展がスイス・ジュネーブのレマン湖畔で開催されているというプレスリリースが国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに、掲載されています、
『HIVというウイルスについては、もう十分な知識を持っていると思っている人が多いようですが、実は様々な誤解が広がったままになっています。最初のHIV感染症例が確認されてからすでに40年以上が経過しているのに、誤った情報とスティグマ・差別は依然として根強く残っているのです』
プレスリリースにはこう書かれています。会期は9月の1カ月間ということなので、間もなく終了ですが、UNAIDS事務局の所在都市であり、いわばおひざ元でもあるジュネーブでも、こうしたキャンペーンが必要なのかと考えると、遠いヨーロッパの話とも思えません。HIVとエイズの流行に対して、知識や情報のUPDATEが必要であるという現実は、ジュネーブでも、日本を含む世界の他の地域と変わらないようです。プレスリリースの日本語仮訳がAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に掲載されているので紹介しておきましょう。
https://api-net.jfap.or.jp/status/world/booklet089.html
HIVの流行に関する最新の推計データについてUNAIDSはこう報告しています。
『UNAIDSは2024年の年間新規HIV感染者数を130万人と推定しています。つまり1日平均3500人が新たに感染しているのです。そして世界全体のHIV陽性者4080万人のうち4分の3以上の人が治療を受けているのに、それでもなお2024年には毎分1人がエイズ関連の原因で亡くなっています』
世界全体で言うと、3000万人を超えるHIV陽性者が生きていくために必要な抗HIV薬による治療を受けています。治療の普及により、エイズ関連の原因による死亡者数は大きく減少していますが、それでも年間63万人が亡くなっているのです。死亡者の多くは、若者や働き盛りの年齢層の人たちです。エイズの流行は決して終わったわけではありません。
「しかも」とプレスリリースは続けています。
『HIV陽性者は依然、スティグマや差別に直面しているのです。それがHIVの新規感染予防を妨げ、HIV陽性者自身の生命と健康を維持する治療も含めたHIVサービスへのアクセスを阻んでいます。事実を知り、誤解と迷信を払拭することで、スティグマを打ち破り、誰もが差別を受けることなく安心してHIVサービスを利用できるようにしなければなりません』
日本の2025年世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマは『U=U 検出されない=感染しない』です。テーマの趣旨はジュネーブのポスター展示と実は共通しています。
http://www.ca-aids.jp/theme/
『U=Uは治療の進歩がもたらした予防手段です。治療の普及を進め、HIV陽性者やその周囲の人たちへの社会的な差別と偏見を解消し、HIV検査を受けやすい環境を広げます』(テーマの趣旨から)
一方で、次に紹介する最近の『地政学的変化』はこうした動きに対立し、「公衆衛生上の危機としてのエイズ流行終結」に向けて曲がりなりにも積み上げてきた成果を一気に破壊してしまう恐れもあります。世界はますます前途多難です。
2. 地政学的変化への危機感を表明 キガリ宣言
ルワンダの首都キガリで開催された第13回HIV科学会議(IAS2025、7月13~17日)の閉幕から一カ月余りが経過した8月末、国際エイズ学会(IAS)の公式サイトに「キガリ宣言」が掲載されました。
https://www.iasociety.org/kigali-declaration
もともとはIAS2025に向けて、アフリカや米国のHIV研究者3人が、国際的に署名を呼びかけるために起草したKigali Call to Action(キガリ行動呼びかけ)という文書だったのが、世界の研究者や医療専門家、アクティビストら多数の署名を得て、若干の文言の修正を行ったうえでKigali Declaration(キガリ宣言)となったものです。
宣言はまず、過去40年以上にわたり目覚ましい成果をあげてきた世界のHIV対策のレガシー(歴史的成果)が『国際援助政策の転換と資金の途絶、そして弱い立場のコミュニティに対する攻撃』といった地政学的変化によって、危機に追い込まれていることを指摘しています。
その変化の最大な要因が米国のトランプ政権による国際保健と対外援助政策の大転換です。行動呼びかけ に比べると、宣言では米国のトランプ政権に対する批判は抑え気味ですが、それでも『専門家の推定』を根拠に『米国政府が2025年初頭に対外援助を中断・終了したことで、アフリカでは2030年までにHIV関連の死亡者数が、これまでの推計より6万人から7万4000人も増加する可能性があります』などと指摘しています。
また、世界の指導者に対し、HIV対策が再び成果を上げられるようにするため、以下の5原則の再確認と対応を求めています。
1 実質を伴うパートナーシップ(新たなパートナーシップによるアプローチ)
2 国際的なHIV研究支援
3 HIV予防の優先(予防・治療プログラムの大規模な拡大)
4 人権の尊重
5 科学に基づいた政策
キガリ宣言の日本語仮訳はこちらで。
http://www.ca-aids.jp/features/367_kigali2.pdf
3 世界エイズデー国内キャンペーンのチラシとSNS用バナーを公開 エイズ予防財団
2025年のキャンペーンテーマは『U=U 検出されない=性感染しない』です。昨年に続きU=Uを取り上げているのですが、『U=U』と言われても何のことだか分からないという戸惑いの声もあります。
A5判のフライヤー(チラシ)は、表裏2ページの限られたスペースの中で、分かりやすくキャンペーンの趣旨を伝えるものです。こちらからPDF版をダウンロードできます。
https://www.jfap.or.jp/enlightenment/goods.html
バナーは2種類あり、メッセージを二つに分けて伝えています。
『適切な治療を続けウイルス(HIV)量が低くなれば、HIVが性行為で他の人に感染することはなくなります』
『治療の成果が予防につながり、HIV検査を受けやすい環境が広がります』
https://www.jfap.or.jp/enlightenment/2025_flyer_ichiran.html
4 パブリックコメントを募集 エイズ予防指針改正案
厚生科学審議会の第97回感染症部会が8月7日に開催され、後天性免疫不全症候群予防指針(エイズ予防指針)、および性感染症予防指針について、厚労省から示された改正案の方向性について了承しました。厚労省はこの改正案について9月8日(月)からパブリックコメントを募集しています。締め切りは10月8日(水)0時0分。つまり10月7日必着ということです、
エイズ予防指針に関する意見提出の方法および提出上の注意については意見募集要領(PDF)をご覧ください。
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000298510
また、エイズ予防指針改正案の概要(PDF)についてはこちらで
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000298511
予防指針改定に向けた論点などを厚労省がまとめた資料『後天性免疫不全症候群及び性感染症に関する特定感染症予防指針の改正について』はこちらでダウンロードできます。
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001534150.pdf
この記事へのコメント