TOP-HAT News 第204号(2025年8月)

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TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)
        第204号(2025年8月)
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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部


◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

1 はじめに 科学研究を揺るがす地政学的変化

2 要約版を日本語仮訳 UNAIDS年次報告書2025

3 「若者の性」白書 第9回 青少年の性行動全国調査報告

4 エイズ予防指針に基づく対策の評価と推進のための研究

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1 はじめに 科学研究を揺るがす地政学的変化
 国際エイズ学会(IAS)が主催する第13回HIV科学会議(IAS2025)が7月13~17日の5日間、ルワンダのキガリで開かれました。隔年開催の国際エイズ会議の間の年に開かれる会議です。国際エイズ会議が開催年を後ろに付けて、例えばAIDS2024と表記されるのに対し、科学会議は国際エイズ学会の略称に開催年を付けています。
 こちらの会議は医科学研究に特化した発表が多いのが特徴ですが、今年は政権に返り咲いた米国のトランプ大統領が就任早々に打ち出した対外援助削減政策の影響が、研究活動にも極めて深刻な影響を与えていることから、会議の話題も資金面における「地政学的変化」に最も大きな関心が集まったようです。
IASの公式サイトには会議の成果をまとめた『Takeaways from IAS 2025(IAS2025の成果)』という記事が掲載されています。7項目の見出しを紹介しておきましょう。
1. 資金削減の影響
 2. アフリカを中心に
 3. レナカパビル マジックワード
 4. 長期作用型選択肢の拡大
 5. 小児および思春期の若者のケアに関する成果と後退
 6. bNAbのブレークスルー
 7. 技術の進歩を活かす
記事の要旨は日本語仮訳で、HIV関連総合情報サイト コミュニティアクションのFeatures欄に掲載されています(末尾の「そちらで」をクリックするとPDF版にリンクします)。
 http://www.ca-aids.jp/features/366_ias2025.html
世界のエイズ対策を資金面で支えてきた米国の大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)の予算についてはIAS2025開催中の7月16日、トランプ政権の予算削減案に対し、米議会上院が超党派で削減せずに残すことを決めたというニュースが入りました。トランプ政権と議会との関係は微妙で、PEPFARをめぐる混乱は今後もさらに続くと見られますが、それでもIASは直ちに歓迎のプレス声明(英文、https://www.iasociety.org/ias-statement/ias-welcomes-us-bipartisan-move-protect-pepfar )を発表し、ベアトリス・グリンステイン理事長は「世界規模のアドボカシー活動が、米議会にこの重要なプログラムを守るよう説得する大きな役割を果たしました」と述べています。ただし、これで資金をめぐる問題が解決したわけではなく、グリンステイン理事長の談話も「グローバルヘルスへの資金提供を妨げる動きは続いており、先行きは依然、不安定です」と続けられています。
トランプ政権の対外援助政策の見直しという地政学的変化の影響は、来年7月にブラジルのリオデジャネイロで開催される第26回国際エイズ会議(AIDS2026)でも議論の大きな焦点となりそうです。


2 要約版を日本語仮訳 UNAIDS年次報告書2025
 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の2025年版年次報告書『エイズ、危機、そして変革の力(AIDS, Crisis and the Power to Transform)』は第13回HIV科学会議(IAS2025)開幕3日前の7月10日に発表されています。このことはTOP-HAT News第203号(2024年7月)でも紹介しましたが、報告書全文に加え要約版(Executive Summary)も公表されているので、エイズ予防財団がその要約版の日本語仮訳を大急ぎで作成し、API-Netに掲載しました。
 https://api-net.jfap.or.jp/status/world/sheet2025_GLOBAL_AIDS_UPDATE.html
 また、合わせて公表されたFact Sheetによると、最新のHIV陽性者数など主な推計値(2024年末現在)は以下のようになっています。
 https://api-net.jfap.or.jp/status/world/sheet2025.html
・ HIV陽性者数 4080万人[3700万-4560万人]
・ 2024年の年間新規HIV感染者数 130万人[100万-170万人]
・ 2024年の年間エイズ関連死者数 63万人[49万-82万人]
・ 抗HIV治療を受けている人 3160万人[2780万-3290万人]
・ 流行開始以来の累積HIV感染者数 9140万人[7340万-1億1640万人]
・ 流行開始以来のエイズ関連疾病による累積死者数 4410万人[3760万-5340万人]


3 「若者の性」白書 第9回 青少年の性行動全国調査報告
 青少年の性行動全国調査は1974年の第1回調査以来、ほぼ6年に1度の間隔で続けられてきました。50年以上にわたって青少年の性行動や性意識の変化を継続的に捉えることを試みた貴重な調査です。
 最新の第9回調査は2023年8月~2024年3月に全国の中学生・高校生・大学生約1万3000人を対象に実施され、その結果をまとめた『「若者の性」白書 第9回 青少年の性行動全国調査報告』(日本性教育協会編、小学館)が2025年7月に刊行されました。コロナ禍を経た若者たちの性に関する状況を詳しく分析・報告しているほか、「性的同意の認知と確認」についての論考など、若者の性に関する今日的な環境と課題も取り上げた意欲的な報告書となっています。
 白書の主な内容、執筆者など詳細はこちらで。
https://jase.faje.or.jp/pub/seikoudou9_hakusho


4 エイズ予防指針に基づく対策の評価と推進のための研究
 研究班の公式サイトが開設されました。『UNAIDS用語ガイドライン2024』の日本語仮訳PDF版もダウンロードできます・
 https://hiv-ppr.jp/index.htm
《本研究の目的は、改正されたエイズ予防指針に基づくHIV/エイズ領域における課題に対する各種施策の評価、進捗状況の把握などのモニタリングと課題抽出を行い、エイズ対策推進に資することである》


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