UNAIDSが大胆なリストラ策を発表 TOP-HAT News 第202号 

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TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)
        第202号(2025年6月)
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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部


◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

1 はじめに UNAIDSが大胆なリストラ策を発表

2 リストラを招いた地政学的変化とは

3 エイズ予防指針の改正に向け、厚労省が論点を整理

4 「みんなの本音が聴ける 語れる」

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1 はじめに UNAIDSが大胆なリストラ策を発表
国連合同エイズ計画(UNAIDS)は5月10日、プレス声明を発表し、低・中所得国を中心にした国別の現地事務所やスタッフの大幅削減を含む組織改革を明らかにしました。
『UNAIDS launches bold transformation to sustain progress and end AIDS by 2030(2030年のエイズ終結目標達成、およびその成果の持続に向け、思い切った変革に着手)』と題する声明は、英文で600語余り、API-Netに紹介されている日本語仮訳も1600字程度の短いものなので、関心がある方はご覧ください。
 https://api-net.jfap.or.jp/status/world/booklet087.html
UNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は「地政学的状況の変化や資金の減少など、HIVとエイズ対策を取り巻く状況の急速な変化に直接、対応できる改革」と述べ、改革の緊急性を強調したうえで「多部門にわたる国家レベルのHIV対策を包摂的かつコミュニティ主導の対応で、より的確かつ効果的に支援できるよう活動のあり方を再構築していきます」と語っています。
低・中所得国における活動拠点になっていた各国の国別現地事務所(76カ所)は「約35カ国に縮小されることになるが、それでも約60カ国には継続的な直接支援が可能な体制になる」ということです。ものは言いようとの印象はぬぐえず、活動の後退は避けられないでしょう。。
UNAIDSは、持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットでもある『公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結』を2030年までに達成することを目指し、世界のエイズ対策を主導する立場にあります。ところが現状は、トランプ政権による米国の対外援助政策の変更により、資金不足の深刻化が一段と進み、ただでさえ遅れがちな目標の達成はさらに困難になっています。達成どころか、抗レトロウイルス治療の普及によるエイズ関連の死者の減少などこれまで積み上げてきた成果も大きく失われ、流行の最拡大を招く懸念が強まっている状態です。


2 リストラを招いた地政学的変化とは
大胆なリストラに追い込まれたUNAIDSを取り巻く地政学的変化とは、そもそもどんなものでしょうか。アフリカ日本協議会(AJF)の公式サイトには《資金不足克服のための国連改革で打ち出された「WHOとUNAIDSの統合」 組織の大リストラ計画を発表したUNAIDSはWHO統合に否定的》という記事が掲載されています。
https://ajf.gr.jp/covid19_25may2025/
 見出しにもあるように、この記事が指摘するのは主に次の3点です。
・ UNAIDSとWHO(世界保健機関)の統合再編案の浮上
・ 再編案に対するUNAIDSの拒絶
・ その背景にある米国のトランプ政権による対外援助政策変更の影響
現状が簡潔にまとめられているので、詳しくは記事をお読みいただくとして、少し補足しておきましょう。
UNAIDSに関しては、1996年の創設時から国連機関としての在り方をめぐる議論の応酬があり、縄張り争いをおさめるかたちで国連6機関(現在は11機関)が共同スポンサーになる合同プログラムとして発足しました。
ただし、保健・医療を専門分野とするWHOはその後もUNAIDS併合への動きを見せ、しばしば吸収合併論が浮上しています。今回はトランプ政権による資金停止という強引な政策変更の影響をWHOとUNAIDSの双方が大きく受けていることから合併論が再浮上したかたちです。
一方で、HIVとエイズの流行についてUNAIDSには『保健・医療の対象としての一疾病というのみならず、社会・経済・文化全体に大きな影響を与える巨大な健康問題』との観点から、保健・医療の専門機関であるWHOのみで対処できるものではないという基本的な考え方があります。プレス声明では数字は明らかにされていませんが、UNAIDSスタッフは現行の608人から280人に縮小される予定で、まさに捨て身のリストラ策というべきでしょう。


3 エイズ予防指針の改正に向け、厚労省が論点を整理
 エイズ予防指針と性感染症予防指針の改正に向けた厚生科学審議会感染症部会の第8回エイズ性感染症に関する小委員会が5月14日に開かれました。予防指針は、感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)のもとで、対策の方向性を示すものです。エイズ予防指針に関しては、同年10月に告示され、これまでに2006年、12年、18年に改正されてきました。今回が4回目の改正作業となります。
 小委員会は昨年6月18日に会合を開き、厚労省から改正のたたき台が示された後、ほぼ1年近い間隔があいていました。理由は分かりません。5月14日の会合では、このたたき台を踏まえ、厚労省から主な論点として以下の9項目が示されています。 
① 予防指針全体の構成
② HIV流行終結に向けた目標設定
③ U=U
④ 偏見や差別の撤廃
⑤ 個別施策層への対策
⑥ 曝露前予防
⑦ 医療体制
⑧ 郵送検査(検査体制)
⑨ エイズ予防指針に基づいたモニタリング

 厚労省から小委員会に提出された資料が厚労省公式サイトに公開されています。論点については以下のPDF版をご覧ください。8ページから『エイズ予防指針の改正に向けた各論点の整理』が紹介されています。
 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001478423.pdf


4 「みんなの本音が聴ける 語れる」
第32回AIDS文化フォーラムin横浜が8月1日(金)~3日(日)の3日間、かながわ県民センター(横浜駅西口徒歩5分)で開かれます。テーマは「みんなの本音が聴ける 語れる」です。
『AIDS文化フォーラムin横浜』は学校や会社などではなかなか聴けない当事者や支援者など、様々な立場の人の本音が語られる場です。講座も展示も盛りだくさんで皆様をお待ちしています。 (Facebookから)
詳細はウエブサイト( https://abf-yokohama.org/ )でご覧ください。Facebookの情報もみることができます。

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