TOP-HAT News 第191号(2024年7月)
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TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)
第191号(2024年7月)
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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html で。
エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部
◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに 4回目の改正に向けて エイズ予防指針
2 打ち合わせ会で論点を整理
3 『U=U 知ることからもう一度。12月1日は世界エイズデー。』
4 エイズ終結に向けた戦略的協力枠組みに署名 UNAIDS・グローバルファンド
5 第31回AIDS文化フォーラムin横浜(8月2~4日)
◇◆◇◆◇◆
1 はじめに 4回目の改定に向けて エイズ予防指針
エイズ予防指針の改定に向けて厚生科学審議会感染症部会のエイズ性感染症小委員会が6月18日に開かれ、厚労省から「論点整理」として改定案のたたき台が示されました。当日の説明資料『次期エイズ予防指針の改正に向けた検討について』が厚労省の公式サイトにPDF版で掲載されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001264941.pdf
エイズ予防指針は感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に基づくものなので、順を追って説明していきましょう。
感染症法は1999年4月、伝染病予防法・性病予防法・エイズ予防法を廃止、統合して施行されました。廃止3法が予防中心の法律なのに対し、予防だけでなく、治療やケア・支援の提供を重視して感染症対策を進めていく考え方を強く打ち出した点が特徴です。
エイズ予防指針(後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針)はその感染症法の第11条に基づき、半年後の1999年10月に告示されました。エイズ予防法の廃止に伴い、わが国のエイズ対策の方向性を示す新たな指針が必要だったからです。
エイズ対策は医学の進歩や社会的な課題の推移に対応するため、5年をめどに見直し作業を行うことになっており、これまでに2006年、2012年、2018年と3回にわたって改正指針が告示されています。つまり、今回は4回目の改定プロセスです。
厚労省の説明資料によると、たたき台は前文で人権尊重を強調し、同時に新たな感染予防の選択肢としてU=Uに焦点が当てられています。
「人権の尊重」については「HIV感染者及びエイズ患者の基本的人権として、偏見・差別なく適切かつ必要な医療を受けることが確保されなければならない」と明記し、前文に続く各章の構成も以下のように変わりました。
第1章 人権の尊重
第2章 原因の究明
第3章 発生の予防及びまん延の防止
第4章 医療の提供
第5章 研究開発の推進
第6章 国際的な連携
第7章 施策の評価及び関係機関との連携
現行指針は「人権の尊重」が全7章中6番目(第6章)ですが、たたき台では新指針の第1章に位置づけられています。
一方、U=U(Undetectable=Untransmittable)は「治療によりウイルス量を一定基準未満に抑え続けられていれば、他者に感染することはない」と説明されています。6月18日の小委員会では、この説明に対し、委員から「性行為で感染することはない」とすべきだとの意見が出されました。
U=Uは治療の進歩により、性感染が防げるようになることが、数多くの調査や研究で確認され、予防新技術の一つとして注目されています。
ここで留意しておかなければならないのは、HIV陽性者とともに暮らしていても、日常生活で他の人にHIVが感染することは基本的にはないということです。これまでLiving Together(HIVに感染している人も、していない人も、すでに社会の中で一緒に生きている)というメッセージがことあるごとに繰り返されてきたのも、そのためでした。
ただし、性行為を日常生活に含めるとすれば、話は少し変わってきます。性的な接触は日常生活の行為ではないのでしょうか。
「日常生活では感染しない」というメッセージの中に「性行為も含まれる」という観点から、U=Uは、HIV陽性者自身が社会の中で暮らしていくうえで、心理的な負担の克服を可能にする重要な医学的成果です。同時に、このことが社会的な文脈におけるスティグマや差別の解消につながる契機になることも重視すべきでしょう。
一方で、治療のアクセスや薬剤耐性など様々な事情で、U=Uの状態に至らないHIV陽性者も一定程度、存在します。U=Uのメッセージが曲解されると、逆に新たな社会的排除を生み出しかねない危うさも内包している。このことへの目配りもまた必要です。
U=Uが困難な人にも、コンドーム使用を含むセーファーセックスでHIVの性感染を防ぐ手段はすでにあります。U=Uの普及を予防の成果につなげるには、こうした点の説明もきめ細かく発信し、理解を広げていく必要があります。
2 打ち合わせ会で論点を整理
今回のエイズ予防指針改定プロセスが公開の場で議論されたのは6月18日の小委員会が最初でした。ただし、非公開ベースでは2023年末から3回にわたって「エイズ予防指針に向けた打ち合わせ会」が開かれ、2つの厚労研究班から現行指針に対する評価報告を受けるとともに、関連するコミュニティ組織の代表からも意見を聞いています。
6月18日に示された「たたき台」はその議論を踏まえたものです。打ち合わせ会に出席したコミュニティ組織のメンバーによると「指摘したことはほぼ反映されている」ということで、たたき台に対してはおおむね好意的に受け止められていました。
今後は小委員会をもう1回か2回、開いて改定案をまとめ、厚生科学審議会の感染症部会にはかることになるようです。
3 『U=U 知ることからもう一度。12月1日は世界エイズデー。』
厚労省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱する2024年度世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマが7月1日、発表されました。
U=Uを正面から取り上げており、エイズ予防指針の改定プロセスと連動するかたちになっています。テーマの趣旨については、コミュニティアクション(Comunity Action on AIDS)のキャンペーンテーマのページ
http://www.ca-aids.jp/theme/
およびAPI-Netの世界エイズデー啓発キャンペーンのページ
https://api-net.jfap.or.jp/edification/aids/camp2024.html
にそれぞれの立場からの趣旨説明が掲載されています。
4 エイズ終結に向けた戦略的協力枠組みに署名 UNAIDS・グローバルファンド
公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行を2030年までに終結に導くため、国連合同エイズ計画(UNAIDS)と世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)が6月24日、戦略的協力枠組みに署名しました。各国政府やコミュニティ組織、パートナー機関の活動に対し、UNAIDSは現場のプログラム実施や技術支援を行い、グローバルファンドは資金確保を支えてきました。UNAIDSのプレスリリースは次のように述べています。
《新たな戦略枠組みは人びととコミュニティを中心に据え、HIV対策全般およびそれを超えて各国やコミュニティ、パートナーの力を結集することで新規HIV感染ゼロ・差別ゼロ・エイズ関連死ゼロのビジョンに向けた成果の加速をはかり、その実現に必要な行動を優先させていくものだ》
これまでとあまり変わらない印象も受けますが、実は世界のHIV陽性者数は推定で3900万人に達しており、2030年以降も流行への対応は引き続き必要です。このため、ポスト2030をにらんだ調整を進めるということでしょうか。UNAIDSのプレスリリースの日本語仮訳がHATプロジェクトのブログに掲載されています。
https://hatproject.seesaa.net/article/503763661.html?1719321770
5 第31回AIDS文化フォーラムin横浜(8月2~4日)
1994年の夏に横浜で第10回国際エイズ会議が開かれた際に、同じ横浜市内で、市民による市民のためのフォーラムが時期をあわせて開かれています。第1回AIDS文化フォーラムin横浜と名付けられたこのイベントに、「文化」の2文字が入れられたのは、医療の側面からだけでなく、広く文化の問題としてエイズの流行をとらえることを重視したからです。
以来、横浜の夏はAIDS文化フォーラムの季節となりました。31回目を迎える2024年は8月2日(金)から4日(日)まで、会場はかながわ県民センター(横浜駅西口徒歩5分)。テーマは「伝えるむずかしさ」です。
『情報が氾濫する現代、相手への伝達方法も多様化しています。AIDS/HIVや性感染症の予防啓発に限らず、本当に伝えたい情報や思いが思い通りに伝わらず、もどかしさを感じる人も多いのではないでしょうか。今年は、伝えたい想いを表現することや届けること、また受け取ることの難しさについて、みんなで考え共有しましょう!』(チラシから)
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第191号(2024年7月)
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なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html で。
エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部
◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに 4回目の改正に向けて エイズ予防指針
2 打ち合わせ会で論点を整理
3 『U=U 知ることからもう一度。12月1日は世界エイズデー。』
4 エイズ終結に向けた戦略的協力枠組みに署名 UNAIDS・グローバルファンド
5 第31回AIDS文化フォーラムin横浜(8月2~4日)
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1 はじめに 4回目の改定に向けて エイズ予防指針
エイズ予防指針の改定に向けて厚生科学審議会感染症部会のエイズ性感染症小委員会が6月18日に開かれ、厚労省から「論点整理」として改定案のたたき台が示されました。当日の説明資料『次期エイズ予防指針の改正に向けた検討について』が厚労省の公式サイトにPDF版で掲載されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001264941.pdf
エイズ予防指針は感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)に基づくものなので、順を追って説明していきましょう。
感染症法は1999年4月、伝染病予防法・性病予防法・エイズ予防法を廃止、統合して施行されました。廃止3法が予防中心の法律なのに対し、予防だけでなく、治療やケア・支援の提供を重視して感染症対策を進めていく考え方を強く打ち出した点が特徴です。
エイズ予防指針(後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針)はその感染症法の第11条に基づき、半年後の1999年10月に告示されました。エイズ予防法の廃止に伴い、わが国のエイズ対策の方向性を示す新たな指針が必要だったからです。
エイズ対策は医学の進歩や社会的な課題の推移に対応するため、5年をめどに見直し作業を行うことになっており、これまでに2006年、2012年、2018年と3回にわたって改正指針が告示されています。つまり、今回は4回目の改定プロセスです。
厚労省の説明資料によると、たたき台は前文で人権尊重を強調し、同時に新たな感染予防の選択肢としてU=Uに焦点が当てられています。
「人権の尊重」については「HIV感染者及びエイズ患者の基本的人権として、偏見・差別なく適切かつ必要な医療を受けることが確保されなければならない」と明記し、前文に続く各章の構成も以下のように変わりました。
第1章 人権の尊重
第2章 原因の究明
第3章 発生の予防及びまん延の防止
第4章 医療の提供
第5章 研究開発の推進
第6章 国際的な連携
第7章 施策の評価及び関係機関との連携
現行指針は「人権の尊重」が全7章中6番目(第6章)ですが、たたき台では新指針の第1章に位置づけられています。
一方、U=U(Undetectable=Untransmittable)は「治療によりウイルス量を一定基準未満に抑え続けられていれば、他者に感染することはない」と説明されています。6月18日の小委員会では、この説明に対し、委員から「性行為で感染することはない」とすべきだとの意見が出されました。
U=Uは治療の進歩により、性感染が防げるようになることが、数多くの調査や研究で確認され、予防新技術の一つとして注目されています。
ここで留意しておかなければならないのは、HIV陽性者とともに暮らしていても、日常生活で他の人にHIVが感染することは基本的にはないということです。これまでLiving Together(HIVに感染している人も、していない人も、すでに社会の中で一緒に生きている)というメッセージがことあるごとに繰り返されてきたのも、そのためでした。
ただし、性行為を日常生活に含めるとすれば、話は少し変わってきます。性的な接触は日常生活の行為ではないのでしょうか。
「日常生活では感染しない」というメッセージの中に「性行為も含まれる」という観点から、U=Uは、HIV陽性者自身が社会の中で暮らしていくうえで、心理的な負担の克服を可能にする重要な医学的成果です。同時に、このことが社会的な文脈におけるスティグマや差別の解消につながる契機になることも重視すべきでしょう。
一方で、治療のアクセスや薬剤耐性など様々な事情で、U=Uの状態に至らないHIV陽性者も一定程度、存在します。U=Uのメッセージが曲解されると、逆に新たな社会的排除を生み出しかねない危うさも内包している。このことへの目配りもまた必要です。
U=Uが困難な人にも、コンドーム使用を含むセーファーセックスでHIVの性感染を防ぐ手段はすでにあります。U=Uの普及を予防の成果につなげるには、こうした点の説明もきめ細かく発信し、理解を広げていく必要があります。
2 打ち合わせ会で論点を整理
今回のエイズ予防指針改定プロセスが公開の場で議論されたのは6月18日の小委員会が最初でした。ただし、非公開ベースでは2023年末から3回にわたって「エイズ予防指針に向けた打ち合わせ会」が開かれ、2つの厚労研究班から現行指針に対する評価報告を受けるとともに、関連するコミュニティ組織の代表からも意見を聞いています。
6月18日に示された「たたき台」はその議論を踏まえたものです。打ち合わせ会に出席したコミュニティ組織のメンバーによると「指摘したことはほぼ反映されている」ということで、たたき台に対してはおおむね好意的に受け止められていました。
今後は小委員会をもう1回か2回、開いて改定案をまとめ、厚生科学審議会の感染症部会にはかることになるようです。
3 『U=U 知ることからもう一度。12月1日は世界エイズデー。』
厚労省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱する2024年度世界エイズデー国内啓発キャンペーンのテーマが7月1日、発表されました。
U=Uを正面から取り上げており、エイズ予防指針の改定プロセスと連動するかたちになっています。テーマの趣旨については、コミュニティアクション(Comunity Action on AIDS)のキャンペーンテーマのページ
http://www.ca-aids.jp/theme/
およびAPI-Netの世界エイズデー啓発キャンペーンのページ
https://api-net.jfap.or.jp/edification/aids/camp2024.html
にそれぞれの立場からの趣旨説明が掲載されています。
4 エイズ終結に向けた戦略的協力枠組みに署名 UNAIDS・グローバルファンド
公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行を2030年までに終結に導くため、国連合同エイズ計画(UNAIDS)と世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)が6月24日、戦略的協力枠組みに署名しました。各国政府やコミュニティ組織、パートナー機関の活動に対し、UNAIDSは現場のプログラム実施や技術支援を行い、グローバルファンドは資金確保を支えてきました。UNAIDSのプレスリリースは次のように述べています。
《新たな戦略枠組みは人びととコミュニティを中心に据え、HIV対策全般およびそれを超えて各国やコミュニティ、パートナーの力を結集することで新規HIV感染ゼロ・差別ゼロ・エイズ関連死ゼロのビジョンに向けた成果の加速をはかり、その実現に必要な行動を優先させていくものだ》
これまでとあまり変わらない印象も受けますが、実は世界のHIV陽性者数は推定で3900万人に達しており、2030年以降も流行への対応は引き続き必要です。このため、ポスト2030をにらんだ調整を進めるということでしょうか。UNAIDSのプレスリリースの日本語仮訳がHATプロジェクトのブログに掲載されています。
https://hatproject.seesaa.net/article/503763661.html?1719321770
5 第31回AIDS文化フォーラムin横浜(8月2~4日)
1994年の夏に横浜で第10回国際エイズ会議が開かれた際に、同じ横浜市内で、市民による市民のためのフォーラムが時期をあわせて開かれています。第1回AIDS文化フォーラムin横浜と名付けられたこのイベントに、「文化」の2文字が入れられたのは、医療の側面からだけでなく、広く文化の問題としてエイズの流行をとらえることを重視したからです。
以来、横浜の夏はAIDS文化フォーラムの季節となりました。31回目を迎える2024年は8月2日(金)から4日(日)まで、会場はかながわ県民センター(横浜駅西口徒歩5分)。テーマは「伝えるむずかしさ」です。
『情報が氾濫する現代、相手への伝達方法も多様化しています。AIDS/HIVや性感染症の予防啓発に限らず、本当に伝えたい情報や思いが思い通りに伝わらず、もどかしさを感じる人も多いのではないでしょうか。今年は、伝えたい想いを表現することや届けること、また受け取ることの難しさについて、みんなで考え共有しましょう!』(チラシから)
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