TOP-HAT News 第190号(2024年6月)

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TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)
        第190号(2024年6月)
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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部


◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

1 はじめに 早くもポスト2030に向けて
2 パンデミック条約は交渉期間を延長
3 世界エイズデーポスターコンクール 作品募集
4 まずはここから AHEAD(米HIV流行分析ダッシュボード)

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1 はじめに 早くもポスト2030に向けて
国連の持続可能な開発目標(SDGs)は2030年を目標達成年に設定しています。つまり締め切りまで5年ほどあるので、ずいぶん先のような感じも受けますが、まだ5年以上あるのか、もう5年しかないのか、微妙なところです。これからの努力にかかっている面もあり、軽々には言えませんが、SDGs全体の達成見通しはかなり厳しいように思えます。
エイズ対策に関していえば、2030年までに『(公衆衛生上の脅威としての)エイズ終結』を実現することが、保健分野(SDG3)のターゲットの一つになっています。「公衆衛生上の脅威としての」という含みは残しているものの、達成はかなり困難です。
 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は今年1月、『HIV response sustainability primer(持続可能なHIV対策入門)』という報告書を公開し、『HIV対策の長期継続に向けた新たなアプローチを発表』という見出しのFeature Story(解説記事)も公式サイトに掲載しました。ポスト2030をにらみ、「流行の終結」から「対策の長期継続」へとパラダイム(基本的考え方)の大転換が必要なことを指摘しています。
 翻訳に少し時間がかかりましたが、API-Net(エイズ予防情報ネット)には、上記解説記事に加え、報告書の日本語仮訳も載っています。
 https://api-net.jfap.or.jp/status/world/booklet077.html
 報告書要旨(Executive Summary)は冒頭で、《公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結に向け各国が努力する中で、2030年以降もその成果を維持するにはどうしたらいいのかという課題も急浮上している》と述べ、次のように続けています。
《2030年の目標達成に向けて予防と治療のサービスを拡大する現在の戦略と手段は、長期的な持続可能性の確保に必要なものとは異なっている。HIVに対する脆弱性を最小限に抑え、サービスへのアクセスを十年以上にわたって確保するには、社会的イネーブラー(課題解決に向けた社会的要因)の活用が極めて重要になる。持続可能性の実現には、すでに実施されているものを少しずつ改良するのではなく、政策やプログラム、システムを思い切って変革することが求められ、その影響はすべての関係者の将来計画に及ぶ》
漸進的な改革ではなく、大胆な変革を・・・うまいことを言うもんだと、ついつい感心してしまいます。目標達成を諦めたわけではないが、2030年以降は新たな考え方で対策を継続しなければならない。つまり、『エイズは終わっていない』ということを改めて強調したうえで、早くも看板の架け替えに着手している印象です。
《2025年ターゲットと2030年のゴールを達成するには、強力な政治的リーダーシップ、およびHIV陽性者やキーポピュレーション、弱い立場の人たちの多分野にわたる積極的関与が求められている。国内および海外の両方から資金を導入しなければならない。一方で持続可能性の実現にはさまざまな条件のもとで、それに合わせた柔軟な対応が求められ、これまでの成果を生かしつつも、計画および実施段階での調整を状況に応じて進めることの重要性が強調されている。国内のHIVの流行の変化、および経済、政治、社会的状況の変化に対応するための柔軟性と回復力が不可欠になるのだ》
 政治のリーダーシップ、HIV陽性者やキーポピュレーションの積極的参加、資金の確保、状況の変化に柔軟に対応するための多分野間の連携・・・報告書はパラダイムの大転換を強調していながら、実は必要とされていることは、これまでの対応とあまり変わらない印象も受けます。必要だけど、できなかったことが、あまりにも多い。この点の再確認も大切です。
HIVの新規感染を増加から減少へと転じ、さらにその減少ペースを速めていくことが、これまでの『公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結』の基本方針だとしても、世界では2022年末現在で推定3900万人のHIV陽性者が生活しています。このうち抗レトロウイルス治療を受けている人は推定2980万人。かりに新たにHIVに感染する人がゼロになったとしても、すでに治療を受けている2980万人に治療の継続を保障し、なおかつ1000万人近い未治療のHIV陽性者にも治療の機会を確保しなければなりません。
成果の持続は、少なくともそのための支援がなければ成立しない。このことは、国際的な課題としてだけでなく、日本国内でも、改めて認識しておく必要がありそうです。


2 パンデミック条約は交渉期間を延長
世界保健機関(WHO)は5月27~6月1日にジュネーブで第77回総会を開催しました。焦点となっていたパンデミック条約については加盟国間の合意が成立せず、交渉の期間を最大1年間、延長して協議を継続することになりました。
この条約は、コロナ流行時の教訓を踏まえ、パンデミック発生前の備えと発生時の協力体制の強化をはかることを目指し、日本を含むWHO加盟194カ国が総会まで2年にわたって交渉を続けてきました。
しかし、ワクチンの分配など医薬品アクセスの公平性をめぐる富裕国と貧困国の主張の隔たりは依然、大きく、協議期間を延長して合意を目指す道を選択しました。
一方、総会では国際保健規則(IHR)の改定も議題となり、こちらは合意が成立。公衆衛生上の重大な世界的脅威に強い警戒を促すカテゴリーとして「パンデミック緊急事態」が新たに盛り込まれています。


3 世界エイズデーポスターコンクール 作品募集中
 公益財団法人エイズ予防財団が、令和6年度世界エイズデーポスターコンクールの出品作品を募集しています。
 《作品は、一人ひとりがHIV感染予防に取り組むことを訴えるもの、HIV陽性者・エイズ患者への理解と支援を呼びかけるもの、HIV検査の受検を呼びかけるものとします》
 (募集内容から)
 作品 (ポスター)の募集は、次の3区分により行います。
(1) 小学生・中学生の部 (2) 高校生の部 (3) 一般の部
 締め切りは、2024年9月3日です。
 詳細はAPI-Netの特設ページから実施要領(PDF)をダウンロードしてご覧ください。
 https://api-net.jfap.or.jp/edification/aids/poster2024.html


4 まずはここから AHEAD(米HIV流行分析ダッシュボード)
AHEAD(America's HIV Epidemic Analysis Dashboard)は、米国政府による啓発サイトHIV.govに掲載されているデータ早わかり集です。ダッシュボードは自動車の計器盤のイメージから様々な分野で使われているようですね。英文のままで恐縮ですが、こちらのページでご覧ください。
https://ahead.hiv.gov/
冒頭部分だけ日本語仮訳にしてみました。
《AHEADは米国におけるHIVの流行終結(EHE)に向けた動きを把握する支援ツールの一つです。米国内でもHIVの影響が深刻な地域で、6つの重要な指標の推移が一目で分かります。終結を目指す活動と米国の国家HIV/エイズ戦略の実行を助ける機能を果たすものです。計画策定の参考になるとともに、他のHIVデータの情報源を調べるうえでも役立てることができます》
重要指標は以下の6つです。
・ Incidence(年間の新規感染率)
・ Knowledge of Status(HIV陽性者全体のうち、自らの感染を知っている人の割合)
・ Diagnoses(検査や臨床症状から感染診断を受けた人の数)
・ Linkage to Care(感染診断から1カ月以内に治療につながった人の割合)
・ Viral suppression(その年にHIV感染診断を受け、血液1ミリリットル中のHIV量が200コピー未満に抑えられている人の割合)
・ PrEP coverage(PrEP対象層のうち、実際にPrEP処方を受けている人の推定割合)


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