HIVワクチンのMosaico臨床試験中止
第3相まで進んでいたHIVワクチンのMosaico臨床試験の中止が1月18日、米国のNIAID（国立アレルギー感染症研究所）の公式サイトで報告されました。その報告を受け、UNAIDSが発表した1月23日付のプレス声明を日本語に訳しました。あくまで仮訳ですが、文末に掲載しておきますので、参考にしてください。
あくまでプレス声明の書きぶりから受けた印象ですが、UNAIDSとしてはもちろん、ワクチン開発を諦めたというわけではないが、国連加盟国が共通目標として公約している2030年のエイズ終結には間に合いそうもない。したがって、予防としての治療（T as P）で突き進んでいこう。今回の中止発表は、こうした考え方を再確認する機会になったようです。
国際エイズ学会（IAS）の公式サイトには、25日付けでワクチン臨床試験の中止を伝えるニュースが掲載されていますが、こちらはやや趣が異なっています。「残念な結果だが、これですべてが終わったわけではない。開発チームは、臨床試験参加者のの免疫反応を評価し、何らかのサブグループに対し、保護効果を生み出している可能性があるかどうかを見極めようとしている」として、中止を次へつなげていこうとする姿勢を強調している感じです。失敗は成功の母といいますか・・・。
英文のままで恐縮ですがIASのニュース『中止となったHIVワクチン臨床試験の重要な教訓』はこちらでご覧ください。
https://www.iasociety.org/news/halted-hiv-vaccine-trial-offers-important-lessons
NIAIDのニュースリリースはこちらです。
https://www.niaid.nih.gov/news-events/experimental-hiv-vaccine-regimen-safe-ineffective-nih-study-finds
◇
ということで、以下UNAIDSプレス声明の日本語仮訳です。
Mosaicoワクチン臨床試験の終了により、HIVの治療と予防を必要な人すべてに選択肢として提供することの重要性が一段と増している UNAIDSプレス声明
https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2023/january/20230123_trial
ジュネーブ 2023年1月23日 HIVワクチンのMosaico（モザイコ）臨床試験が終了になったことで、国連合同エイズ計画（UNAIDS）は「効果が証明されているHIVの予防と治療に関する研究をさらに進め、選択肢として必要な人すべてに確実に届けられるようにすることが緊急に求められている」と強調しています。技術の共有を進め、利用を妨げる障壁を克服することで、もっと多くの人が、すでにある予防と治療の選択肢を利用できるようになれば、HIVパンデミック対策は急速に進みます。予防としての治療の普及拡大には、長時間作用型の治療薬の開発と共有も重要です。
UNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は「ワクチン臨床試験が残念な結果になったことで、曝露前予防（PrEP）の経口薬、長時間作用型注射薬、膣リングなど、利用可能なHIV治療と予防の研究成果を普及させていくことがさらに重要になりました」と語っています。「ワクチン開発に向けた努力は続ける必要があります。ただし、今回の残念な結果にもかかわらず、効果が証明されている予防と治療の選択肢を必要とするすべての人に提供することで、世界はいまなお、2030年のエイズ終結が可能なことを忘れてはいけません」
HIVワクチンのモザイコ試験に対しては独立の委員会による中間評価で、安全性に関する懸念は報告されなかったものの、HIV感染リスクが低下したというエビデンスも認められなかったとの報告が出されたことから、中止になりました。この臨床試験は2019年から米国立アレルギー感染症研究所（NIAID）、ヤンセン・ワクチン予防社、HIVワクチン試験ネットワーク、米陸軍医療研究開発コマンドを含む官民パートナーシップとして進められてきました。米国を含め、ヨーロッパとアメリカ大陸の8カ国で、男性とセックスをする男性、およびトランスジェンダーの人たち3900人が治験に参加しています。参加者はワクチンとプラセボのいずれかを12カ月間に4回注射していますが、委員会によると、2つのグループの間でHIV感染率に有意な差は認められませんでした。
ワクチンと治癒に関する世界的な研究は今後も続けていかなければなりません。一方で世界はワクチン開発や治癒の実現を頼りにして待っているわけにもいきません。2030年のエイズ終結を公約通り達成することは依然、可能ですが、指導者たちには何もせずに待っていられる余裕はないのです。
PRESS STATEMENT
The end of the Mosaico vaccine trial must be a spur to deliver HIV treatment and prevention options to all who need them says UNAIDS
GENEVA, 23 January 2023— The end of the Mosaico HIV vaccine trial must lead to a continued drive to innovate as well as an urgency to ensure that proven HIV prevention and treatment options reach all who need them, says UNAIDS. Rapid progress against the HIV pandemic is possible if existing prevention and treatment options are made available through the sharing of technologies, expanding provision, and tackling barriers to access. The development, and sharing, of long-acting prevention and treatment options are also important to expand coverage.
“The disappointment of the vaccine trial further underlines the importance of rolling out available HIV treatment and prevention innovations, including oral PrEP, long acting injectables and the vaginal ring,” said UNAIDS Executive Director, Winnie Byanyima. “The search for a vaccine must continue, but it’s important to remember that despite this setback the world can still end AIDS by 2030 by delivering all the proven prevention and treatment options to all the people who need them.”
Although there were no safety concerns flagged during the vaccine trial, it is being discontinued after an independent review of the research found no evidence of reduced risk of HIV infection among participants. The trial began in 2019 as a private-public partnership that included the United States National Institute of Allergy and Infectious Diseases, Janssen Vaccines & Prevention B.V., the HIV Vaccine Trials Network and the United States Army Medical Research and Development Command. The trial enrolled 3900 men who have sex with men and transgender people across eight countries in Europe and the Americas, including the United States. Participants received four injections over 12 months, either of the vaccine or a placebo, with the monitoring board finding no significant difference in the HIV acquisition rate between the two groups.
Global research efforts into vaccines and a cure must carry on. At the same time, the world cannot wait for, or depend on, a vaccine or cure. The end of AIDS by 2030, as promised, is still possible, but leaders have no time to wait.
あくまでプレス声明の書きぶりから受けた印象ですが、UNAIDSとしてはもちろん、ワクチン開発を諦めたというわけではないが、国連加盟国が共通目標として公約している2030年のエイズ終結には間に合いそうもない。したがって、予防としての治療（T as P）で突き進んでいこう。今回の中止発表は、こうした考え方を再確認する機会になったようです。
国際エイズ学会（IAS）の公式サイトには、25日付けでワクチン臨床試験の中止を伝えるニュースが掲載されていますが、こちらはやや趣が異なっています。「残念な結果だが、これですべてが終わったわけではない。開発チームは、臨床試験参加者のの免疫反応を評価し、何らかのサブグループに対し、保護効果を生み出している可能性があるかどうかを見極めようとしている」として、中止を次へつなげていこうとする姿勢を強調している感じです。失敗は成功の母といいますか・・・。
英文のままで恐縮ですがIASのニュース『中止となったHIVワクチン臨床試験の重要な教訓』はこちらでご覧ください。
https://www.iasociety.org/news/halted-hiv-vaccine-trial-offers-important-lessons
NIAIDのニュースリリースはこちらです。
https://www.niaid.nih.gov/news-events/experimental-hiv-vaccine-regimen-safe-ineffective-nih-study-finds
◇
ということで、以下UNAIDSプレス声明の日本語仮訳です。
Mosaicoワクチン臨床試験の終了により、HIVの治療と予防を必要な人すべてに選択肢として提供することの重要性が一段と増している UNAIDSプレス声明
https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2023/january/20230123_trial
ジュネーブ 2023年1月23日 HIVワクチンのMosaico（モザイコ）臨床試験が終了になったことで、国連合同エイズ計画（UNAIDS）は「効果が証明されているHIVの予防と治療に関する研究をさらに進め、選択肢として必要な人すべてに確実に届けられるようにすることが緊急に求められている」と強調しています。技術の共有を進め、利用を妨げる障壁を克服することで、もっと多くの人が、すでにある予防と治療の選択肢を利用できるようになれば、HIVパンデミック対策は急速に進みます。予防としての治療の普及拡大には、長時間作用型の治療薬の開発と共有も重要です。
UNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は「ワクチン臨床試験が残念な結果になったことで、曝露前予防（PrEP）の経口薬、長時間作用型注射薬、膣リングなど、利用可能なHIV治療と予防の研究成果を普及させていくことがさらに重要になりました」と語っています。「ワクチン開発に向けた努力は続ける必要があります。ただし、今回の残念な結果にもかかわらず、効果が証明されている予防と治療の選択肢を必要とするすべての人に提供することで、世界はいまなお、2030年のエイズ終結が可能なことを忘れてはいけません」
HIVワクチンのモザイコ試験に対しては独立の委員会による中間評価で、安全性に関する懸念は報告されなかったものの、HIV感染リスクが低下したというエビデンスも認められなかったとの報告が出されたことから、中止になりました。この臨床試験は2019年から米国立アレルギー感染症研究所（NIAID）、ヤンセン・ワクチン予防社、HIVワクチン試験ネットワーク、米陸軍医療研究開発コマンドを含む官民パートナーシップとして進められてきました。米国を含め、ヨーロッパとアメリカ大陸の8カ国で、男性とセックスをする男性、およびトランスジェンダーの人たち3900人が治験に参加しています。参加者はワクチンとプラセボのいずれかを12カ月間に4回注射していますが、委員会によると、2つのグループの間でHIV感染率に有意な差は認められませんでした。
ワクチンと治癒に関する世界的な研究は今後も続けていかなければなりません。一方で世界はワクチン開発や治癒の実現を頼りにして待っているわけにもいきません。2030年のエイズ終結を公約通り達成することは依然、可能ですが、指導者たちには何もせずに待っていられる余裕はないのです。
PRESS STATEMENT
The end of the Mosaico vaccine trial must be a spur to deliver HIV treatment and prevention options to all who need them says UNAIDS
GENEVA, 23 January 2023— The end of the Mosaico HIV vaccine trial must lead to a continued drive to innovate as well as an urgency to ensure that proven HIV prevention and treatment options reach all who need them, says UNAIDS. Rapid progress against the HIV pandemic is possible if existing prevention and treatment options are made available through the sharing of technologies, expanding provision, and tackling barriers to access. The development, and sharing, of long-acting prevention and treatment options are also important to expand coverage.
“The disappointment of the vaccine trial further underlines the importance of rolling out available HIV treatment and prevention innovations, including oral PrEP, long acting injectables and the vaginal ring,” said UNAIDS Executive Director, Winnie Byanyima. “The search for a vaccine must continue, but it’s important to remember that despite this setback the world can still end AIDS by 2030 by delivering all the proven prevention and treatment options to all the people who need them.”
Although there were no safety concerns flagged during the vaccine trial, it is being discontinued after an independent review of the research found no evidence of reduced risk of HIV infection among participants. The trial began in 2019 as a private-public partnership that included the United States National Institute of Allergy and Infectious Diseases, Janssen Vaccines & Prevention B.V., the HIV Vaccine Trials Network and the United States Army Medical Research and Development Command. The trial enrolled 3900 men who have sex with men and transgender people across eight countries in Europe and the Americas, including the United States. Participants received four injections over 12 months, either of the vaccine or a placebo, with the monitoring board finding no significant difference in the HIV acquisition rate between the two groups.
Global research efforts into vaccines and a cure must carry on. At the same time, the world cannot wait for, or depend on, a vaccine or cure. The end of AIDS by 2030, as promised, is still possible, but leaders have no time to wait.
この記事へのコメント